こう、筆が乗ってくると止めどころを見失ってしまいまして。
とりあえず勢いのままに後悔いやさ公開しておきましょう。
クックさんはよい先生だよ、本当だよ。
モンハン日記 ―激闘! イャンクック ②―
踏み出す足は、一歩目から全力だ。
向こうを見ているままの怪鳥へ向かって、全力で走り寄りながら、右腕を思い切り振り被る。
左の足が、地面を強く踏みしめる。足跡を捻じ込むように体重をずらしていきながら、女はオーバースローで、握り締めたものを投げ放った。
僅かに放物線を描いて飛んでいく桃色の球体が、イャンクックの尻にぶつかる。
球体はすぐに軽い音を立てながら、一気に破裂した。桃色の粉が飛び散り、朱色の甲殻で斑模様を形作る。直後、鼻を突く強い刺激臭が漂い始めた。
「よしっ!」
自分が行なった行為の成果を確認し、女はガッツポーズを取った。
手順その一、まずは問題なく成功。これでイャンクックの位置は、しばらくの間筒抜けだ。
今投げつけたのは、ハンターが使う道具の一つ、ペイントボールだ。
すり潰すと異常なほどの粘着力を発揮するネンチャク草をこれでもかという程にすり潰し、染色剤として使われるペイントの実を粉にしたものを混ぜ合わせ、丸く固める。
そうして出来た桃色の球は、ぶつけた相手の体に強烈な匂いと色を残す。
十数分は余裕で残り続けるその匂いのおかげで、ハンターたちは目標としたモンスターの位置を知り、追い続けることができるのだ。
熟練のハンターであれば、モンスターの縄張りや習慣から、移動先を推測できるというが、生憎自分はまだ駆け出しもいいところだ。
それに、師匠も常々言っている。
「使えるものは全て活用すること。使わずにしまっておく道具は、ゴミと一緒だ」、と。
「……と!」
思考を一時中断する。目の前の標的が、こちらへと振り返り始めていた。
大きな目がぐり、と動き、自分を捉えるのを感じる。震えあがりそうになる背筋を、気合で押しとどめた。
腕を大きく振り、足を上げて、イャンクックの左側へと向けて走っていく。
その間にも怪鳥は翼を大きく羽ばたかせながら、大きな鳴き声を上げた。
息を連続で吐き出すような、小刻みに続くその音を聞きながら、女は足を止めずに走り続ける。
目はもちろん、こちらへと振り返ろうとしている鳥竜を捉えたままだ。
だから、鳥竜が体を後ろへ僅かに逸らしたのも、見逃すことはなかった。
「――!」
思考より、体のほうが一瞬だけ早く動く。飛び付くように前へ転がる女のすぐ後ろで、何かが弾け、飛び散る音が聞こえた。
前へ転がるその刹那、女には飛び散ったものの正体が見て取れた。
(あれがイャンクックの火炎液……!)
この巨鳥の特徴的な攻撃方法。
自身の体内で生み出した可燃性の液体を、敵対者に向かって吐き出すのだ。
液体は少しの衝撃で爆発し、直撃すれば火傷を負うくらいではすまないダメージを受けるという。
今のをかわせたのは、運が良かったのだろう。そう自分の中で結論づけながら、女はすぐさま立ち上がり、疾走を再開する。
自分の火炎液が外れたのを知ったイャンクックは、さらに彼女を追って体を振っていく。自分の尻尾側を目指して走っていく女の背を、さらに追う格好だ。
さらには、足も動かし始める。鳥の爪を持つその足を一歩踏み出しながら、大きな嘴を、一気に振り下ろしてきた。
「お、っと……!」
地面に突き立ち、土くれを散らすその突きをかわし、女はそこで初めて攻勢に転じた。
振り向きながら、背中に携えた相棒の持ち手に、右手を添える。そして頭をもたげる巨鳥に向かって、全力で走り寄った。
巨鳥が小さな敵の動きに気づき、視線を向けてくるが、もう遅い。すでに女は両の手を武具に添え、巨鳥を間合いに捉えていた。
「ああああッ!!」
咆声が迸る。
漲った気合を力に変え、女は背中からそれを振り上げた。
僅かな日光を弾き返し、無骨な鉄の刃が天を指す。
女の身丈ほどの長さを持つその大剣の刃を、彼女はその重量に任せるままに、一気に振り下ろしていった。
風を裂き、空気を唸らせながら、鉄の刃が標的を砕かんと迫り――。
《続く》