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おためしかっ!

たまにはこんなものを書きたくもなります。
ええなりますとも。
書いてて思ったけどこれ二次ドリ展開になっちゃうんじゃないかな!
ならないかな!
 
 
 空は、光点がまばらに散りばめられた黒い画布のように見えた。
 深みのある蒼にも見える黒の世界に、白の点が乱雑に描き込まれ、一枚の風景を生み出している。
 画布の上、天には一際蒼白に輝く月が一つ。それに従う数多の星が光を放ち、大地を穏やかに照らそうとしていた。
 そのままであれば、静寂に満ちるであろう夜の世界。
 その絵画の完成を、しかし妨げようとする幾つかのものがあった。
 一つは、燃え盛る焔だ。
 山の裾野を埋め尽くすように広がる朱色が、夜風に吹かれて揺らめく様は、寄せては返す波のようにも見える。
 しかし、波よりもなお激しく揺り返しながら空へ昇ろうとするその姿は、自然よりも、むしろ生あるもの独特の執着の現れのようにも思えた。
 飛沫の代わりに火の粉を幾つも飛ばし、炎は揺らめくその身で、それを飲み込もうとしていた。
 焼ける木々に囲まれた、小さなその村を。
 そこに微かに残っていた、幾つもの篝火を。

 炎が、上がる。
 悲鳴が響く。
 火が燃え移った家屋が崩れ、壊れていく。
 紅蓮の炎が舞い踊る地獄のような光景。
 その中で、声を張り上げている一人の少女の姿があった。
「ママ……ママぁ! お願い起きて……目を開けてよぉ……!!」
 枯れた声を、それでも必死に張り上げて、少女は目の前に倒れ伏す母を揺すっていた。
 何度も何度も力を込めたせいか、それともどこかを捻ってしまったのか、腕を動かす度に痛みが走る。
 喉元まで出掛かる苦痛の声を何度も飲み込んで、少女は懸命に母を呼び続けていた。
「お願い、起きて、起きてよママ……早く、起きて……逃げないと……!」
 少女に揺さぶられる母は、地面の上に倒れ込んだまま、動きを見せない。熱風に煽られる長い髪が、微かに焦げた臭いを上げていた。
 投げ出されたままの腕や額には、薄く血が滲んでいる。微かに呻く声はあるが、意識をはっきりと取り戻すにはまだしばらく時間が必要のようだった。
 けれど恐慌に襲われかけている少女には、それを理解しろと言い聞かせても難しいことだろう。
 彼女に出来るのは、張り詰めた糸のような緊張感を湛えたまま、必死に母に呼び掛けることだけだ。
 そもそも、何もかもが、少女には突然のことだった。
 確か、母親が自分の部屋に入ってきたのが、全ての始まりだったように思う。
 ベッドの上でうとうととしていたところに、突然荒々しくドアを開け放った母親が入ってきて、少女の腕を掴みあげたのだ。
 指が食い込む痛みに声を上げたが、母はそれを気にかけてもくれなかった。ただ険しい表情のまま、娘に向かって、何かを早口に告げてくる。
 その横顔が綺麗な夕焼け色に染まっていることに気づいて、少女が窓の外を見たのと、突然部屋の中が黒一色に染まったのとは、一体どちらが先だったのだろうか。
 気づいたときには、少女は地面の上に投げ出されていた。痛みを訴える全身を無理やり動かしてみれば、すぐ傍らには、自分と同じように地面に倒れる母親の姿。
 何が起きたのかわからないままに、少女は懸命に、自分の母を呼び続けていたのだった。
「ママ……ママぁ……!」
 涙交じりに母を揺さぶり続ける少女の視界に、影が差した。はっとして顔を上げる。
 そして少女はそこに、壁を見た。
 焔の壁を背後に置いて、その壁は夜よりも色濃い闇を宿していた。
 樹木のように太い二本の足を持ったその壁は、全身を微かに震わせている。その度に金属が触れ合うような、耳障りな音が長く響いた。
 鼓膜を長く震わせ、頭蓋の中で反響し続けるその音は、少女には酷く不快なものに思えた。
 大きな壁から伸びた、長く太い腕は、奇妙なくらいに節くれだっている。鎌のように伸びた腕の先端は、炎の光を受けて鈍く輝いていた。
 その輝く刃を前に、少女は身じろぐこともできずにいた。目を大きく見開き、鎌を持つ黒い巨体を見つめるだけだ。
 まだ幼い彼女にも、これだけは理解できていた。
 目の前のものが、自分の命を刈り取ろうとしていること、それだけは――。
 諦めにも似た脱力感が、全身を蝕んでいく。力を失い、倒れ込みそうになることだけは、どうにか堪えた。
 自分の目の前には、母がいるのだ。まだ目を覚まさない母を守れるのは、自分だけ。頭の片隅にあったその思いが、少女の体に力を甦らせていた。
「うう……!」
 両手を地面に突き出し、体を支える。そして己の体で、母親の背を覆い隠した。
 それと同時に、巨体が鎌を振り上げる。焔に照らされる闇の中、一際輝くそれは、少女の目には弓なりの月のように映っていた。
 しなる月が、風を唸らせて振り下ろされる。背中に突きささる衝撃を覚悟して、少女は身を竦め、瞳を閉じた。
 一瞬だけ、思いが脳裏を掠める。
『――どうして、こんなことになっちゃったの――?』
 その問い掛けに答えを返してくれるものは、ここにはない。翻る月は無慈悲に、不条理に、少女の命を空へ還そうと夜風を裂いた。

 風を裂く音が響いて、しばらくが過ぎる。
 けれど少女の身には、何の衝撃も伝わってはこなかった。
「え……?」
 きつく閉じていた瞳を開く。すぐに見えたのは、人の足とブーツだった。
 慌てて下を見るが、母親はそこにいる。自分の小さな体の下からは、抜けだしてはいない。
 母ではないということを確認して、少女は改めて頭を上げた。
 まず見知ったのは、たなびく青い髪。
 熱風に煽られて揺れるそれは、どことなく涼やかで、黒や紅、周囲のどの色にも染まらないものを感じさせる。
 頭の後ろで一本にまとめた長髪をたなびくに任せて、その人物は壁に対峙していた。
 少女と黒い巨体、その間に立って、人影が大きく肩を揺らすのが見えた。すぐに、聞き慣れない声が耳を打つ。
「――どこもかしこも焼け崩れて、酷い有様だわ。これ全部、貴方がやったのかしら?」
 鋭い声色は、どうやら女性のもののようだった。母の声より幾分か高く、張りのある声を紡ぎながら、彼女は手に持っていた杖で地面を強く突く。
高く、澄んだ音が響いた。視線を杖へ向けると、きらきらと輝く幾つかの金色の輪が、微かに揺れているのが見える。
 先程の音は、この輪っかが奏でたものか――そう理解した少女が次に気づいたのは、女の周囲に浮かぶ黒い塊の群れだった。
 数にして十幾つもの黒塊が、青髪の女性の周囲に浮かんでいる。緩やかに揺れながら、円を描くように女性の周囲を旋回するその群れは、まるで黒い鳥の一団のようにも見えた。
 その鳥の群れに囲まれたまま、女性がさらに声を奏でていく。
「……まあ、答えてくれなくてもいいんだけれど。どの道、私の仕事に変わりはないし」
 もう一度持ち上げた杖を、片手の指で回していく。風を切って唸りを上げるそれを止め、巨体へと突きつけて、女性はさらに声を張り上げた。
「堕落の徒、落涙の弟、悪逆の実を《刈り取る者》よ――そこまでだわ。これ以上の罪は、私が許さない」
 その直後、風が吹く。火を巻き込んだ突風が一瞬だけ、女性の青い髪を掻きあげた。
 同時に、突き出されたままの杖が再び澄んだ音を奏でる。しゃん、という綺麗な音が響いた直後、黒鳥の群れがその動きを変えた。
 十字架をそのまま運び出したかのような、黒い十字。いずれも長く鋭い部分を前にして、巨体へ突きつけられている。
 応じる巨体が、腕を振り上げた。鎌のついた長い腕を空に掲げたまま、頭に当たる部分から、虫の鳴き声にも似た声を上げる。
 その片方の腕がかなり短くなっていることに、少女はようやく気がついた。
 見れば巨体の足元に、黒く長いものが落ちている。先程自分に向けて構えられていた鎌つきの腕だとわかった。
「――――」
 微かに呻く母を庇う姿勢のまま、少女は息を呑み、前を見続ける。
 自分の前に立つ女性。
 青い髪を靡かせ、杖を構えて黒い十字架の群れを従えるその姿は、まるで黒い羽を散らす天使のようにも見えた。
 天使が、言葉を続ける。それは少女の耳に、まるで誓いの言葉のような神性さを持って、滑るように飛び込んだ。
「――“黒蒼剣姫”、エニル・ノイベスティ。
 その罪、我が黒剣にて滅ぼします」

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Author:みかわんこ
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